糖尿病と感染症

なぜ感染しやすいのか

感染を防ぐバリアが弱くなる
 感染から身を守るためには、まず細菌などの外敵から身を守る強いバリアが重要です。体の表面であれば皮膚、また眼、鼻、気道、消化管などであれば粘膜がバリアとなります。
 糖尿病患者さんは、皮膚の代謝が障害されています。そのため、新しい皮膚への入れ替わりが遅れて皮膚は乾燥し、傷つきやすくなっています。また、バリアである粘膜を保護するもの、例えば目では涙、胃であれば胃酸などの量も減少しているため、細菌にさらされやすくなっています。このように糖尿病では、最初に感染を防ぐためのバリアが弱くなっています。

感染を防ぐ機能の低下
 バリアを通過して、細菌などが体内に侵入すると、白血球が集まってきて細菌などを食べてしまうことで、殺菌し、感染を防いでいます。糖尿病患者さんでは、この白血球の戦う力が低下しています。
 また体には、一度感染した細菌に対して、それに対抗する抗体を作り、次の感染に備える仕組み(免疫)があります。高血糖状態は免疫に関係する細胞の働きも低下させるため、正常な免疫システムが保たれなくなります。
 このように糖尿病患者さんでは、感染を防ぐ働きが弱くなっているため、感染しやすい状態にあるのです。

細小血管障害
 血糖値が高い状態が長く続くと、細い血管が傷み、血液の流れが悪くなります(細小血管障害)。細菌が感染した部分に血液が行き渡らないということは、細菌と戦う白血球が、細菌のいる場所に届かないことになり、細菌がより繁殖しやすい状態になってしまうのです。また、せっかく使用した薬(抗菌薬など)も、感染した場所に到達しにくいということにもなります。

糖尿病性神経障害
 糖尿病の三大合併症のひとつである神経障害がある場合、感覚が鈍っているために、傷や感染の発見が遅れることがしばしばあります。発見の遅れは、治療の開始時期の遅れにもつながり、感染症の重症化にも影響をおよぼします。



糖尿病でかかりやすい感染症
 糖尿病では全身のあらゆる場所で、感染症が起こりやすくなっています。

歯周病
 糖尿病患者さんは、唾液の分泌量が減少している上に、糖濃度が高いため、歯垢(プラーク)が付きやすく、歯周病菌が増殖しやすい状態になっています。食物を噛むことは、同時に口の中がこすれたり、傷つくことでもあるので、口の中は感染を起こしやすい場所なのです。

尿路感染症
 尿路感染症は女性に多い病気ですが、糖尿病がある場合には男性もかかりやすくなります。神経障害のために尿がたまっても感じにくくなったり、尿を出す力が弱くなったりします。そのため、尿が長時間膀胱に留まり、細菌が繁殖しやすくなるのです。また、尿が膀胱から逆流することもあり、膀胱炎だけでなく腎臓の病気などを起こすこともあります。

肺炎・肺結核など
 肺炎は、ほかの人からの飛沫や接触感染で起こり、糖尿病患者さんではかかりやすくなっています。また、腎障害や循環障害を合併する人は、重症化しやすく、死亡する人も多いため、注意が必要です。インフルエンザや肺結核の発症率も高いことが知られています。

皮膚、足病変
 糖尿病患者さんでは、白はくせん癬菌(水虫)や真菌の感染が増加しています。当科で足の皮膚にセロテープを貼って採取した検体を検査したところ、糖尿病患者さんの約90%から白癬菌や真菌が検出さた。



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